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食品の異臭発生要因について

食品で生じる異臭には様々なものがあり、それらは販売者や製造者に対する消費者からのお申し出・苦情の申告につながります。それらの異臭は多くの場合、食品の開封時や調理・飲食時に感じ取られるものですが、その発生要因については食品のライフステージ上の様々な箇所に存在し得ると考えられます。

今回は、過去に発表されている学術誌への掲載論文から、食品における異臭発生要因とライフステージ上の発生箇所についての考察を紹介します。

食品の異臭発生要因の検討

食品の「異臭」は、食品のどのような「状態」の変化により生じるであろうか。食品における異臭発生要因を、その食品の商品仕様上の事項との係わりから区分することを試みた。

※「におい・かおり環境学会誌」(公益社団法人 におい・かおり環境協会 発行)平成22年11月号(41巻6号)掲載の「食品の異臭苦情について -日本生協連に寄せられる異臭苦情の状況と取り組み-」(氏田勝三/日本生活協同組合連合会 品質保証本部 商品検査センター)に基づき構成

表 食品における異臭発生要因とライフステージ上の発生箇所

異臭発生要因 原料段階 製造段階 製品段階 開封使用段階
A 内的要因

商品仕様で定めた
事項からの逸脱に
起因する
a1:食品変敗 自己分解
酸化
微生物要因
a2:配合・工程不良
a3:包材由来 包材フィルム由来
印刷インク由来
B 外的要因

商品仕様で定めた
管理項目以外の
事項に起因する
b1:製造資材の誤使用
b2:付着・混入 原料段階の付着
異臭原料の混入
製造資材の混入
製品への付着
製品への意図的混入
開封後の付着・混入
b3:臭い移り 原料・製造段階の移染
製品への移染
開封・使用時の移染

・「a1:食品変敗」の「開封使用段階」で、商品の表示や使用方法で示された保存方法や使用方法から逸脱したことにより異臭が発生した場合は、「B 外的要因」となる。

・「b1:製造資材の誤使用」「b2:付着・混入」「b3:臭い移り」については、発生リスクのある要因について商品仕様上のチェック項目として定め管理する仕組みがある場合に、その管理が不十分であったために異臭が発生したときは、「A 内的要因」となる。

a1:食品変敗

自己分解や酸化、微生物要因といったものがあり、食品の全ライフステージで起こり得る。自己分解については、サバ、イワシ、アジ等の青魚の鮮度低下に伴う揮発性有機酸類などの生成による異臭がある。酸化については、食品中の油脂や多価不飽和脂肪酸などの自動酸化に伴い、デカジエナールをはじめとした酸化臭成分が生成することによる異臭がある。微生物要因については、米飯や和菓子などでの一部の酵母による酢酸エチル生成に伴うシンナー臭、プリンなどでの耐熱性好酸性菌によるグアヤコール生成に伴う薬品臭などによる異臭がある。

a2:配合・工程不良

香料や酒精の配合ミス、加熱の過不足による臭気成分バランスの変化などによる異臭がある。

a3:包材由来

包材フィルム自体と印刷インクに由来するものに分けられる。包材フィルムに由来するものについては、ラミネートフィルムの張り合わせ溶剤(酢酸エチル等)の乾燥不良による溶剤臭や、フィルム成型工程での熱や物理的ストレスによる低分子量化とカルボニル基生成にともなうプラスチック臭などの異臭がある。印刷インクに由来するものについては、インクの乾燥不良による溶剤臭がある。グラビア印刷の油性インクの場合は酢酸エチルやトルエンなどの溶剤が残存し、水性インクの場合もクレゾールやフェノキシエタノールなどの溶剤が残存することで異臭となる場合がある。

b1:製造資材の誤使用

消毒用エタノールの噴霧過多による消毒臭・刺激臭などによる異臭がある。また、使用作物を誤ると塩素臭成分(2,4-ジクロロフェノール)が生成し得る農薬(プロチオホス)を誤使用した野菜において異臭が生じる場合がある。

b2:付着・混入

原料段階の付着、異臭原料の混入、製造資材の混入、製品への付着、製品への意図的混入、開封後の付着・混入、といったものがあり、食品のライフステージにより起こり方が異なる。原料段階の付着には、収穫後や水揚後にトラック荷台や漁船甲板上あるいは船体に付着していた重油等と交差することによる石油臭などの異臭がある。異臭原料の混入では、変敗等の異常があった原料が受入れ段階で排除されず、通常の原料に混入し製品となることで異臭が生じる。製造資材の混入には、製造ラインのグリースや機械油の混入によるガソリン臭・石油臭、配管やタンク・容器への次亜塩素酸残存により生じた消毒臭・塩素臭などがある。

製品への付着には、他の製品の破損による漏洩物の付着に伴う異臭、物流中のダンボールケースへの機械油等の付着によるシミや異臭がある。製品への意図的混入には、食品・飲料への農薬や薬品の混入による異臭や風味異常があり、中毒や体調不良等の人体被害が引き起こされる場合がある。開封後の付着・混入には、石油ストーブへの給油後の手からの付着による石油臭、家庭内での容器の再利用に際しての内容物残存や容器取違えにより混入した元の内容物の臭気などがある。

b3:臭い移り

原料・製造段階での移染と、製品化後の包材を透過した移染、開封後の使用・保管段階での移染に分けられる。何れの場合も、脂質含量が高い程、また重量あたりの表面積が広く空気との接触面が多い程、臭気成分を吸着しやすく臭い移りを生じやすい傾向がある。原料・製造段階の移染には、木製パレットのカビ臭(トリクロロアニソール)、工場内のフェノール樹脂塗装と次亜塩素酸が反応して生じた消毒臭(クロロフェノール類)などの、原料・半製品への吸着による異臭がある。なお、木製パレットのトリクロロアニソールは、パレットの防黴剤として使用されていたトリクロロフェノールが一部のカビによりO-メチル化されたものである。

製品化後の移染には、バリア性の低い包材を使用した食品・飲料への防虫剤臭等の臭い移りがある。包材の材質によるバリア性については臭気成分との組合せにもよるが、多くの場合は[PE(ポリエチレン)< PP(ポリプロピレン)< PET(ポリエチレンテレフタレート)およびPA(ナイロン)]という順で高くなる。また、材質が同じ場合は厚みがある方がバリア性は高くなる。前述の臭い移りを生じやすい傾向が食品にあり、さらに包材のバリア性が低い場合には、家庭保管、倉庫保管、輸送に際して、臭気の強いものと隣接して置かれることや、その空間が狭いなどの条件により、環境中の臭気成分が製品包材を透過し内容物に吸着されて異臭となる。また、前述の原料での場合と同様に、コンテナや倉庫内の不適切な木製パレットから揮散したトリクロロアニソールは、製品に対して臭い移りの原因となり得る。

開封後の使用・保管段階での移染は、戸棚や冷蔵庫などの狭い空間で他の食品や洗剤等の臭気がこもっているような場合に、米、牛乳等の臭気を吸着しやすい食品において発生することがある。米は包材自体に空気抜き穴があり、脂質も僅かながらあり、消費に一定期間を要するため、条件によっては保存環境中の臭気の移染を受ける。牛乳については多くの製品では包材自体のバリア性は低く、脂質含量は比較的高いため、冷蔵庫内で他の食品から臭い移りを受け易い。

まとめ

食品における異臭発生要因を商品仕様上の事項との係わりから区分し検討したが、総じて「A:商品仕様内の事項に起因する”内的要因”」と「B:商品仕様外の事項に起因する”外的要因”」との差異は、「商品仕様上の管理の対象としている事項か否か」ということにあると言える。

異臭発生の防止のためには、「A:商品仕様内の事項に起因する”内的要因”」に関しては、個々の異臭発生要因を商品仕様上の重要な管理事項として明確にして個別に管理点検することとなり、これを遵守することにより異臭発生を防ぐか、問題が発生した製品を除去することが可能となる。

一方、「B:商品仕様外の事項に起因する”外的要因”」について見れば、「b1:製造資材の誤使用」「b2:付着・混入」「b3:臭い移り」などでは発生し得る要因を予め想定して個々に管理することは難しく、製造環境全体を整備して管理する事で対応することとなる。「”何”に気をつけて管理すべきか」「”何”の点検結果を記録すべきか」ということについて網羅的に示し対応することは実際上困難であり、そのため、これらの要因への対策は「様々なことに気をつける」ということとなるが、より発生リスクの高いとみられる要因を除去するために「事例」に基づく対応が重要となる。

 

食品の異臭お申し出・苦情への対応に際しては、その原因物質が何かを把握することはもとより、以上に紹介したような異臭の発生要因や発生段階を特定することが重要になると考えられます。

オフフレーバー研究会では、今後も引き続き、異臭原因物質や異臭発生要因等の調査に関する研究や事例の紹介を、このホームページ上で行っていく予定です。

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